1991年5月、木版画家清宮質文は亡くなった。その後、1994年練馬区立美術館で駒井哲郎との二人展が開かれ,1997年には神奈川県立近代美術館で待望の清宮質文展が開かれた。そして、2000年小田急美術館、2004年には高崎市美術館で清宮質文展が開催された。

そのつど、清宮質文の作品を初めて目にする人など、多くの人々に深い感銘を与え、その評価は徐々に高まっていった。清宮質文の作品は控え目であり、地味ななかにしみじみとした叙情性・詩情が感じられる。だが、それだけではない、深く澄んだ独自の精神世界がある。見る人は、その世界に引き込まれ、残照のような余韻が心に残るであろう。

私は清宮質文の作品を、ささやかながらず収集している。それは、1993年の初め、銀座の画廊で妻と一緒に見た蝋燭の小さなガラス絵から始まった。透明なうつくしい青が印象に残る絵であった。炎さえ青であった。妻はその絵に釘付けとなり、強く引き寄せられると言っていた。

その時、画廊の人から見せていただいた画集に載っていた木版画に強く惹かれ、ぜひ本当の木版画を見たいと思ったが、その機会もなくいたずらに時が過ぎていった。

だが、当時、青山にあったミウラ・アーツが清宮質文を扱っていると知り、初めてミウラ・アーツを妻と一緒に訪れたのは、その年の9月であった。数多くの清宮質文の木版画などを見せていただき、私たちは、いいしれぬ感動に果てしなき清宮質文の世界へ引き込まれていった。

その日、購入したのが木版画「夢の中へ」である。この作品は、可愛がっていた猫が死んでしまい、悲しみにくれた清宮質文が、死を悼んで制作したものだそうである。皿に座った猫は空中へ浮かんでいる、そして、透明なガラスの棺の中に入り、その上には大きな宝石が輝いている、という不思議な絵である。

猫の表情は愛らしく、目がかわいい。視線は下界に向いているようである。天国にのぼりながら、「皆さん、お世話になりました。みんな元気で生きていってね。寂しがらなくていいよ、天国で待っているからね。」と言っているような気がする。猫の上に輝く宝石は死者の魂であり、手向けの意味があったそうである。

前述したように2000年2月、小田急美術館で清宮質文展が開かれた。それは妻が召天した翌月のことであった。その展覧会には、妻とともに選んだ私の所蔵品も2点出品された。その展覧会を見られずに妻が逝ってしまったことは残念である。

しかし、清宮質文の絵は今も私の心をなぐさめてくれる。

小倉敬一

清宮質文

「夢の中へ」

1983年作 木版画

清宮質文・初めてのコレクション

ミウラ・アーツ